読書記録・AIに負けない子どもを育てる
巷でちょっと話題だったので。
AI翻訳を時々仕事で使うことがあるんだけど、正直、現状はどうも「愛すべきポンコツ」という印象が拭えない。
現時点でAI翻訳にそこそこ仕事をさせるには、人が前後の処理(プリエディット&ポストエディット)をする必要がある。
- プリエディット:文章の構造を理解しやすいよう原文を編集
- ポストエディット:訳文の修正…で済めばいいけど、実はゼロから訳し直すこともある。興味のある方は日本通訳翻訳学会の動画をご参考に。
こんな尻拭いを他人にやらせてたら、人間なら即刻クビを切られると思う。
AI翻訳は人と比べるとものすごく速いし安いのでクビにはならないけど、出てきたものを見てると「あー、そう来たかー……」と思う箇所がいろいろあって。愛すべきポンコツだなーと思うし、ほんまにちょっとずつ学習しとるんかいな?と頭を小突きたくもなるわけよ。
今後、なんらかのブレイクスルーがあれば、愛すべきポンコツが冷血な精密機械としてふるまう時がくるのかもしれない。まだわからないけれど、シンギュラリティってあるからね。それを前提とするならば、の話。
AI時代の到来しつつある現代に生まれ、未来に生きる子どもたちが高度に知的な生産的活動をするためには、高い読解力が必要である!
(ここからテイストが変わるのでBGMは中島みゆき「地上の星」でw)
本書「AIに負けない子どもを育てる」の前提には、AIのベンチマークとして東大合格を目指した「東ロボ」プロジェクトがある。
プロジェクトの成果として、AIの特性や弱点、さらにベンチマークとしての大学入試問題の欠点が明らかとなったため、信頼性の高いベンチマークを求め、読解力を測定するリーディングスキルテスト(RSI)を開発した。ところが、本来、AIのために開発されたはずのRSIは、AIが苦手なことは人間も苦手であることを突き止めてしまった。
そう、実は「意味を理解して読むことができない」子どもたち、そして大人たちが想定外に多いのが日本の現状だったという衝撃の事実の判明である。
このあたりは、著者の前著「AI vs 教科書が読めない子どもたち」の内容。先に前著を読むべきであった。あとで読む。
本書「AIに負けない子どもを育てる」は、RSIを軸に、知識や経験に頼らず、目の前の文章そのものを正確に読解する力の重要性を説明する。
後半では子どもの読解力を伸ばす方法を、具体的な方法や模擬授業を提示して説明する。
大人の読解力の向上は、終盤の菅原氏の体験談が参考になる。キーワードだけを拾って斜め読み(本書ではAI読みと書かれている)するのではなく、文章の構造や一語一語の関連を解析しながら、ゆっくりでも正確に目の前の文章が指し示す意味を把握する、純粋な「読み」を繰り返すこと……気が遠くなるほど地道な作業だが、能力を伸ばすにはそれしかない。
本書にはRSIの模擬テストが収録されており、自身の読解力を試したり、読み方を理解するのによい。菅原氏のように、どう考えて解いたか(or 間違えたか)を丁寧に言語化することで、自分の「読み」のクセも把握できる。クセを把握することで日常生活の「読み」に関連するトラブルを減らせる。
私の結果は〈全分野そこそこ型〉だったけど、若干短期記憶に難ありという感覚を持った。というのも、提示された問題文と具体例を頭の中だけで照合すると、最初の方に書かれている条件がいつの間にか記憶から消滅しがちで、短期記憶の領域はそこまで大きくないと推測している。RSIはこのような無意識のクセに気づかせてくれるよいテストだと思う。
本書全体の感想を端的に述べると、いろいろ衝撃だったとしか言いようがない。
義務教育を経ても文章を正確に読めない大人がいることが衝撃だったし、IT活用で子どもたちと教師たちの負担を減らし、より充実した学習環境を作ろうとしたことが裏目に出ていることも衝撃だった。板書を必死で写すことがトレーニングになることを、私はこの本で初めて知った。
IT化は子どもたちが能力を獲得する機会をどれくらい奪ったのだろうか。
また、文章を正確に読めない大人が相当数いることが現実であるならば、通じているつもりのコミュニケーションが実は通じていなかったケースも実は多いのかもしれない。これけっこうショッキングじゃないですか?
であれば、構造が把握しやすい文章を書くこと、そして分かりやすく話すことは発信者の責務だと感じるし、発信者に求められる読解力とは、情報を正確に読み解くことに加え、情報の受け手の読解力のレベルや背景知識をも正確に把握して、文章の出力を加減することも含まれるのではないか。
と、そういうことを思った。
あれっここ育児ブログやなかった?完全に仕事の話と化してしまったんだけど……